日本語学校 参与観察の備忘録

実態を社会学的にみてみよう。

『みんなの日本語』の基本 三種の神器

これは初期過ぎるが故に、初心者がそれすら分からないことを自分自身が忘れてしまわぬための備忘録である。
まず、『みんなの日本語』の教科書を使って初級者に教える場合、本冊と翻訳本と教え方の手引きが三種の神器となる。
本冊を使って教えることになるが、新しく出た言葉は翻訳本に書いてあり、本冊には書いていないが便利な用語が書いてあるため、それも授業で使うことになる。教え方や流れは、教え方の手引きを見て参考にする。超初級の教師の場合、下手に自分なりの文型の導入を取り入れるよりも一度、教え方の手引きにある導入を利用したほうがよい。経験上、分かりにくい文型の場合、自分で考えた導入より、教え方の手引きの導入にある学生に対する伝え方の方が学生の理解が早かった。もちろん、語彙や例にある言葉は学生の興味に合うようにした方がよい。
この三冊が授業準備の基本セットとなる。

4月入学者と7月入学者の違い

日本語学校では留学生の入学が複数回ある。今月は7月入学生が続々と入国しており、入国後の手続きやオリエンテーションを受けている。ある日、4月に入学した留学生と7月に入学した留学生が同じ教室でテストを受けることになったのだが、その教室の中にいる光景はまるで違った。

4月に入学した留学生は、クラスや教師に馴染んでおり、教室でのルール、マナー、教師の話を聞く姿勢がある。一方、7月に入学した留学生は何かに警戒するような眼差しで教師を見ている。教師の問いかけに対して返事もせず、ただ黙々と対応している。

その他、入国直後の学生は権利主張がとても強い。まだネイティブが話す日本語に耳が慣れないこと、これまで母国で習ってきた日本語が実際に自分が使う状況に緊張していること、状況が理解できないためはっきり意思を伝えることで自分の身を守ろうとしている等、様々な要素がそうさせているのであろう。

来日して3カ月が経った留学生と来日して2週間も経たない留学生が一緒になった時の気づきである。

 

ベトナム、ネパール、スリランカの「かっこいい」

ベトナム、ネパール、スリランカの男子学生では「かっこいい」に対する意識が異なるようだ。

ベトナムの男子学生の場合、言葉を選ばずに述べるなら、チンピラのようなイメージを持っている。髪の毛は金髪や金に近い色で染め、ネックレスは大ぶり、歩くときは手をポケットに入れて前かがみである。そしてタバコをよく吸う。休み時間になると、廊下の両側に列を作って地べたに座っている。そこでスマホをしたり、友達と話したりしている。そして、そこにベトナムの女子学生がやってきてたむろしている。廊下の真ん中に人一人分が通ることができるスペースがあるが、その他の学生が往来するため、廊下が満員電車の状態になる。金髪だらけのベトナムの男子学生が地べたに座っている様子はまるで、荒れた中学校の様である。

ネパールの男子学生の場合、かっこいいのイメージは、サッカー選手である。ネパールの男子学生は、アディダス等のスポーツ系のTシャツやアウトドア系の服を好んで着ている。髪型は、オシャレなサッカー選手のスタイルに似ている。彼らは、スポーツがそこそこできて、頭が良くて、見た目は爽やか系がいいと思っているようだ。

スリランカの男子学生の場合は、強くて体の筋肉がムキムキで、サングラスをかてけて金のネックレスをちらりと見せるような格好が好きである。髪型は、ラッパーのような髪型をよくする。高級で大きな車を持っているのがかっこいいと言う。

こうした違いは、アルバイトの給料が入ったあたりから如実に現れる。ただ、まだ日本語ができない学生の中には、うまく日本語で伝えられず丸刈りにされてくる学生もいる。

 

 

事務局vs日本語教師(教務)

大学において事務と教員ではどちらに主導権があるのかと言えば教員である。国立であれば学長は教員から選ばれるし、意思決定を行う会議は教員が主体で行なわれる。また、大学の事務職は、事務局と教務の2つに分かれている。事務局は職員の人事や大学の財務等、大学運営に携わる仕事をする。そのため、教員とあまり関わない。一方、教務は学生課で働く等、学生と直接関わる仕事である。そのため教員との関わりも多い。この教務の事務と教員との間には、しっかりと上下関係があり対立する事はない。また、事務局と教員は分離されているため、かなり上の役職は別として、教員と事務局との間に上下関係そのものがない。また、事務職員同士では事務局が上、教務が下というイメージがある。それは、事務職員でも出世する職員は事務局配属になるからだ。ちなみに国立大学であれば、係長から上の配属が事務局か教務かが出世ルートかどうかの目安となる。

日本語学校の場合、この教員と事務局が密接して仕事をしている。しかも教員が教務の仕事をしているのだから、その関係は微妙である。日本語学校での稼ぎ頭は教員である。しかし、事務局の現場仕事である事務もするのだから、事務局の指示に従ってもらわはければならないという構造だ。

この日本語学校の構造は、事務局vs日本語教師という対立を作り出している。しかし、見る限りにおいて、事務局の方が上である。

留学生の寮からの旅立ち

4月に入学した留学生は最初の半年間、寮に住むことができる。家賃は光熱費を込みでの破格の値段である。寮は4人での共同部屋であるため、他の国の留学生と共同生活となる。こうした他国の学生との共同生活や初めて日本で住む事にトラブルは多い。例えば、寮生同士の生活の違いによる台所の使い方で揉めたり、友達を部屋に呼んで夜中までうるさくしたりしているなどがある。その他、ゴミ出しや掃除の仕方が異なるため、寮の担当者からいつも寮生は注意を受ける。そのため、留学生は寮での生活に嫌気をさしており、早く出たがる学生も多く、寮を出る事は留学生にとってこの上ない喜びなのである。

夏休みは自分で部屋を探さなくてはならない。不動産会社を紹介することはない。ただ、日本語ができない留学生の事情を察して代わりに家を探してあげる代わりに手数料を取るという犯罪に巻き込まれることもある。

こちらから賃貸探しに必要な日本語や敷金、礼金等を説明したこともあるが、それほど食いついてこない。理由を尋ねると、先輩や知り合いが紹介してくれるからとの事だ。紹介であれ不動産会社に行き着き、必ず必要になるはずなのだが。彼らにとっての「紹介」への信頼は絶大である。

ともあれ、寮で日本の家の掃除の仕方やゴミ出しの仕方を学んでいるはずだが、こうした躾にカンシャクを起こしていた留学生が個人でアパートに住み始めるとどうなるのだろう。今後の様子を見守りたい。

席替えと異文化交流

夏休みを目前に、非常勤の先生からの熱い要望により席替えを決行することとなった。理由は、仲のいい学生同士がおしゃべりをしてうるさい、そのクレームが他の学生からもきている、リスニングの時ですら話しているという内容であった。日本語学校では複数の先生が1つのクラスを交代で教えるというティームティーチングの形式を取っている。そのため、複数の先生が同じクラスを見ているのだが、クラスが元気な学生で構成されている場合、その元気の良さのコントロールは教師側の手腕にかかっている。

ある先生は、うるささを上手く利用して授業を引っ張っていく。また、ある先生は名指してうるさいと注意をする。しかし、席替えを申し出た先生の方法を聞くと、その言葉が不明瞭であり何を注意されているのか学生が理解できないものであった。会話を聞いていた他の非常勤の先生から、◯◯先生、それじゃあ学生は理解しませんよ。怒られていることすら伝わっていないですよ、と指摘される。

しかし、席替えが唯一の解決策であると主張するため、席替えをすることになった。

いざ席替えとなると、学生からはブーイングが起こり、その席はエアコンが直接当たって寒い、暑いと文句が飛び交った。しかし、次の日はすっかり馴染んで、隣の席の新しい友達とワイワイ話している。隣の席は基本的に国籍が異なる学生にしているため、会話は日本語で行われている。ネイティブの自分がまったく分からない日本語で会話が繰り広げられ、互いに笑いあっている。側から見ると何が面白いのが全く理解不能である。ある種、別の意味でクラスが騒がしくなったが、たまに席替えするのもありだなと思えた出来事である。

プレスメントテスト直前のクラス別学生態度

来日して直ぐにプレスメントテストを行い日本語能力毎にクラスを分ける。そして、一学期を過ぎたら、再度プレスメントテストを行いクラスを分ける。この再度クラスを分けるプレスメントテストに対する態度がクラスによって異なる。

1番上のクラスは、テストに対する慌ただしさはない。私たちな1番上のクラスですよ?という余裕を出している。大学の学部や院に進学する学生が多く、日本留学試験の準備をしたりと自分は自分という様子だ。

2番目のクラスはテキスト一冊が終わりなんとなく終わった達成感に浸っている。テキストをしっかり使うクラスの中では1番上のクラスになるため、その余裕があるのかもしれない。

3番目のクラスは、進度があまり変わらない2番目クラスに対して下剋上を仕掛けようと必死である。授業内容は、夏休み前までに一冊を終わらせるために授業内容が早いスピードになっている。スピードが早くなると日頃の漢字練習や語彙テストの頻度も多くなる。それに加えて復習プリントを沢山入れている。それに対して学生は、テストですから!と食らいついてくる。

これらより下のクラスは、マイペースにテスト準備をしている。テストの受け方の練習、すなわち、問題の指示文を読む練習や例をみて問題を解く練習、友達や先生に話しかけない練習をする。そのほか、復習のプリントを解いたりするが、優しい内容のため、ほぼ間違わないことに興奮する。

1番下のクラスでは、教師も含めてプレスメントテストを全く意識していない。特にテスト準備をすることもなく、ゆっくりと着実に進めている。