日本語学校 参与観察の備忘録

実態を社会学的にみてみよう。

体調を崩したり事故に遭う学生

体調を崩したり、事故やアクシデントに遭う学生が後を絶たない。体調を崩し校内で倒れ救急車で運ばれる学生、寮で気を失う学生、車と接触事故を起こす学生、財布を無くす学生、アルバイト先で怪我をする学生。それ以外にも体調不良を訴える学生が多くいる。学生は300人近くおり、一ヶ月は30日しかないのだからアクシデントが起こらない日がない。平均して1日に2,3件のアクシデントが起こっているように感じる。

もうすぐ夏休み。何事も起こらないでほしいと祈るばかりである。

夏休みとアルバイト

留学生のアルバイトの時間は1週間に28時間という時間数は有名であるが、夏休みになると週40時間まで認められていることは案外知られていない。

1週間に40時間といえば、1日8時間勤務を週5日する事になる。すなわち、一般的な勤務形態と変わらない。

夏休みを目前に留学生はアルバイトの確保に必死である。留学生が入学した4月から留学生を支援する施設や、夏休みのホームビジットを実施する団体等を何度か紹介したことはあるが、これまで一度も、行きました、ホームページを見ましたという報告すらもらった事がない。

夏休みに向けて日本人の友達を作るように促したり、交流を持てるセンター等を紹介するが、アルバイトの入れ具合をみると行きそうにもなさそうだ。

ちなみに、7月は一ヶ月まともにシフトに入り出した月の給料が入るようになる月である。学生は給与明細を見せ合いをしながら、嬉々としている。

留学ビザが下り過ぎている件

今年は明らかにビザ発行許可が緩い。日本語学校側はある程度の不許可を見越して申請を出しているのにほぼ通っている。その為、日本語学校側も大慌てである。オリンピック前の日本語人材の育成なのか、留学生20万人計画の達成に向けてラストスパートにかかっているのか。留学生20万人計画の目標数値の達成ならば、測定は2020年5月1日現在の数値であるから、あと2年はこのままだ。まあ、その真相は定かではないが、現場は大慌てである。

机や椅子が足りない、教師が足りないという状況であるが、経営側はいつ引き締めに入っても良いように伏線を張って、備品を買ったり専任講師を雇ったりしない。備品はあるものでまかなったり、そのまま夏休みに突入することで講師の雇用の様子見をしている。

きっと2020年後は留学生の質に言及した政策転換をするのだろう。たぶん、アルバイト時間数を増やすことも盛り込んで。

 

 

クラス別「ワンワン」への反応

犬の鳴き声が「ワンワン」であることに対するクラス別の反応。

上級クラス、

「えっ、ワンワンですか?犬はワンワンと言いません。」

おわり

 

中級クラス、

犬の鳴き声マネ合戦。誰が上手いか競い合う。その後、

学生「先生!私は先生のうちの犬になりたいです!」

先生「先生は犬いらないです。」

学生「先生のうちはどこですか?自分で行きます。ごはんだけ、いいです!」

先生「先生のうちはアメリカです。(ウソ)みなさんはビザが必要ですから、先生のうちに来ることができません」

学生「でもあそびにいきたいです!」

先生「えーーっ」

エンドレスに続く

 

初級、

「ワンワン⁉︎⁉︎ なんですかっ せんせいっ」(最初の説明が聞き取れていない)

いぬがいいます です。

「おぉ、せんせい、もういちどっ‼︎」

犬マネをする。

クラス中が爆笑の渦。

 

ちなみに初級ほど音に反応するため、擬音語が楽しいらしい。「ピーポーピーポー」も好きである。

 

日本語教師にとっては日常の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

非常勤講師のエントリーショック

急遽、新しい非常勤講師がやってきた。日本語学校で働くのは初めてという。初級クラスに入ったその非常勤の先生は帰ってくるなり、副主任にこう言った。学生は赤ペンも持っていない、なんなんですか⁉︎せめて赤ペンくらい待たせて下さい、学校側で買ったらどうですか?と。

副主任の返事は、彼らは鉛筆を持ってくることができる、それですら褒められる学生なんです。まず鉛筆を持って勉強すること自体によくできたと思って下さい。日本語学校はそんなもんですよ、であった。

たしかに、彼らが自らノートを持ってくるようになったり、教科書に書いていない説明をしたときにメモを取るようになった姿を見ると、あぁ、学習する仕方を覚え始めたと感動を覚える。

非常勤講師のエントリーショックを見ることができる一幕だった。

授業中の携帯電話の回収

日本語学校では授業中に留学生の携帯電話を回収する。日本語学校では、とても当たり前で当然の行為である。集め方は様々で専門講師が決めたり、それぞれの教師に集め方を任せたりしている。主な集め方は、教師がカゴを用意し学生がそのカゴに携帯電話を入れる方法だ。しかし、それでは携帯電話を隠し持つこともある。そのため教師が教室を回って1人ずつ直接集めたり、名前を書いた模造紙を広げ、その上に携帯電話を置いたりという工夫をする。

しかし、それでも携帯電話を隠し持ち授業中にゲームをしたりSNSをする学生がいる。こうした時の罰則は様々である。ある専任講師は個別に指導しても話を聞かないときはその場で国へ帰れと言い、パソコンを開いて航空チケットを予約しようとして学生が慌てて止めて謝らせる方法を取っている。ある専任講師は連帯責任で全員掃除、そしてある専任講師はその日は携帯電話を1日取り上げて、預かる日数はルールを破った回数の二乗にしている。二乗を理解できない学生は毎日、まだですか?と教師にすがって来るという。そして周りの学生からケタケタと笑われている。

地元の商店街と留学生

学校の側にある商店街を散策する。商店街は随分昔からあるもので、その地域の観光地のような紹介をされることもある。しかし、現在ではシャッターが閉まっている店も多い。商店街の組合に話を聞いたところ、商店街は近くの日本語学校の留学生で活気づいているという。そのため、商店街を散策するためのパンフレットを多言語化しようという話があっているという。魚屋や肉屋、総菜屋等、様々な店から話を聞いたところ、1番盛り上がりを見せている店は野菜を安く売る八百屋だった。留学生はダンボール単位でジャガイモを買ったりしているという。また、店のおばちゃんと仲良くなり、おばちゃんはよく留学生が買う野菜の名前をネパールやベトナムの学生から教えてもらっているという。日本のお母さんと慕うネパールの学生も多いようで、一時帰国した時はおみやげを買ってきたり、日本語学校を卒業するときに挨拶にきたりするという。また、ネパール学生御用達の格安洋服屋もあり、そこの店主はネパール学生の好みに合わせて服を仕入れていると話す。

商店街からは留学中を歓迎する声ばかりを聞いた。アルバイト先では人材不足の穴埋め的な扱いをされ、銀行や役所、アパートの住人からは煙たがられる対応を受ける中、こんなにも留学生を受け入れる場所があったのかと驚かされた。感ずるところはお金を落とすからという理由だけではなく、商店街の人たちも若者と話ができて嬉しいとか、若い人が商店街をウロウロしているのが商店街が活気付いている雰囲気を出しているといったことが理由にあるように思われる。